【ボイトレ×医療】 ―ミュージカル女優Aさんの症例から読み解くベルティング発声の本質とは

ボイストレーニング Jun 01, 2025

REBELTING ACADEMY代表のChicoです。

今日は、日々舞台に立ち続けるミュージカル女優Aさんの事例を通じて、プロフェッショナルな現場で実際に起こっている“声の限界”と向き合うことについてお話ししたいと思います。

 

プロフェッショナルほど、声の限界を超えている

Aさんは現在、某劇団に所属し、全国を飛び回りながら舞台に立つエネルギッシュなミュージカル女優です。その一方で、慢性的な片側声帯結節、副鼻腔炎、扁桃炎といった耳鼻科系の不調を長年抱えており、体力が落ちると気管支炎や喉風邪を併発してしまうこともあります。

そんな不調の中でも、彼女はステージに立ち続けています。時にはステロイドを服用しながら、声をなんとか保ちながらの出演もあるそうです。

プロフェッショナルとしての責任感と、舞台への愛。忙しいスケジュールの中でも声の問題解決に真摯に向き合うAさんの姿に、私たちトレーナー陣も真剣に応えていきます。

 

医師と本人とトレーナーの“すれ違い”

Aさんは今、REBELTING ACADEMYのワンボイスNEOコースを受講しており、5ヶ月目のBELT5(コンパクトベルト)というフェーズに取り組んでいます。これは、ベルティングに必要な強い閉鎖力を育てる最も重要なフェーズです。

ただそのタイミングで、喉風邪と舞台が重なりAさんの喉の状態が悪化してしまいました。そして、かかりつけの耳鼻科医からは「結節がある状態で息を止めるような発声は危険。もっと息を流す発声に切り替えた方が良い」と指導されました。

医師としては、身体の負担を最小限に抑えようとする誠実なご提案。けれどAさんにとっては、今まさに習得中の技術と真逆の提案に不安が生まれてしまいます。

  • 医師:症状軽減のために発声方法の変更をすすめる

  • 本人:まだ習得途中の発声技術が充分でない

  • トレーナー(私):閉鎖力が不十分な状態で息を流すと力みに逆戻りしてしまう

誰も間違っていないのに、それぞれの視点がすれ違ってしまう。これは、今現在、多くの現場で起きているボイトレ界の課題でもあります。

 

閉鎖ができていないと、喉を痛める

公演中に声帯結節が悪化したことを受け、今回は急遽、私が直接レッスンを担当させていただきました。

Aさんは「閉鎖できるようになった」と感じていたようですが、実際に響きを聴くと、声帯はしっかり閉じられておらず、音は鼻腔に抜けてしまっていました。長年の癖がまだ抜けきれていなかったのです。

これは、ベルティングを習得する過程で多くの方が通る道でもあります。自分ではしっかり声を出しているつもりでも、実際には正しい筋肉が使えていなかったり、違う場所に力が入りすぎていたりすることが多く、自己流の判断で喉を壊してしまったり、何年かけても力みが取れず納得いく発声の習得に至りません。

喉に過度な負担をかけないためには、正しい閉鎖の感覚とバランスを身につけることが必要不可欠です。特に、喉の故障においては、閉鎖力が強過ぎるのではなく、閉鎖力が弱いことが一番の原因になります。

 

ベルティングスポットと“ZEROポイント”──感覚と神経がつながる瞬間

ベルティング発声を習得するうえでとても大切なのが、「声が力みなく最大限に響くポイント」を見つけることです。REBELTINGではそれを“ベルティングスポット”と呼んでおり、さらにその中でも、無理なく声が通り、まるで重力が消えたような状態を“ZEROポイント”と表現しています。

この感覚は、単なる発声のコツというよりも、身体の中で響きとエネルギーがぴたりと合う奇跡のような瞬間です。力を入れなくても声がスコーンと抜ける。それでいて喉の力みがない。そんな心地よさと、安心感に包まれた喉にヘルシーな発声の状態です。

そのためには、喉を開ける力・声帯の閉鎖力・感情エネルギーという3つのバランスを丁寧に整えていく必要があります。これは決して短期間で身につくものではなく、繊細な体の感覚の再教育が必要となります。

Neuroplasticity──発声の感覚を書き換える

私たちの発声の状態、声の使い方は、生まれてからずっと培ってきた習慣やクセ、音への認識はもちろん、人間性にまで深く結びついています。そして、その根本原因から発声の状態を変えることが結果を出す秘訣になります。

REBELTINGが大切にしているのは、「Neuroplasticity(神経可塑性)」という考え方です。これは、脳が新しい情報や体験に応じて神経回路を再構築できるという、人間の本来持っている力のこと。

ベルティング発声の習得においても、昔ながらの力みや息の使い方を、丁寧に書き換えていくことで、喉や身体が“新しい声の回路”を覚えていきます。

声の響きと体の感覚を手がかりに「ここが心地いい」という場所を探し当て、その体感と安心を繰り返すことで、脳と身体は新たな発声方法を自分のものとして定着させていきます。

これは積み上げる技術というより、本来の自然な発声に戻っていくような「脱ぎ捨てていく感覚」に近いです。

 

喉に負担のないベルティングのためのトレーニング法

REBELTING発声法では、アーティストの芸術性を最大限に生かしながら、喉に負担のないベルティング発声の基礎を整えるために

  1. 音の響きで判断すること

  2. その人の発声時の雰囲気

この2つを頼りに調整していきます。

響きで判断する:音の質が語る身体の状態

「美しいものは正しい」という言葉があるように、REBELTING発声法では、響きが合っていれば、体の内側の筋肉のコーディネーションが正しく働いていると考え、耳と直感を頼りに、声の響きのベクトルを妥協なく調整していきます。そのために認定NEOトレーナーはベルティング発声をマスターしている必要があります。

雰囲気から見抜く:声・体・心のエネルギーバランス

そしてオンラインでも対面でも、その人が声を出すときの雰囲気、エネルギーの質、表情、発する空気の密度などを観察しながら、声・体・心(感情)のバランスのズレを調整していきます。

今回Aさんの問題点は、閉鎖時の響きのベクトルが鼻腔にズレていたこと、そして心が冷えていたことでした。心が冷えているというのは、感情から発声できていない状態のことで、感情が使えないと、体の内側にある深層筋(インナーマッスル)を正しく使えません。

ベルティングのような高度な発声には、意識では動かすことができないこの深層筋(インナーマッスル)の動きがとても重要です。私は時々、「インナーマッスルは魂の器ではないか」と感じるほど、感情と深層筋のつながりには神秘的な力を感じます。

REBELTING発声法が難解な専門用語を使わず、イメージと感情の共感覚を使って結果を出す大きな理由は、

  1. 芸術性を保つこと
  2. インナーマッスルに働きかけること

この2つにあります。

 

天才的なアーティストのような芸術的な歌唱では、使っている脳の部位や脳波も関係してくるので、論理的に頭で考えすぎると、歌が生命力を失ってしまう。しかし、この感情からアプローチをかけるからこそ、芸術は人の心を振るわせ癒す力が宿ります。

特にAさんのように、感覚に優れたアーティストが頭で考え込みすぎると、今回のようなエネルギーの不一致が起こり、喉に負担がかかりすぎて故障のリスクが高まります。実際、感覚派のアーティストがボイトレを受けて不調に陥ることが多いのはここに原因があることが多いです。

 

不調の根本は感情エネルギーにあった

今回のレッスンで最も印象的だったのは、Aさんが抱えていた“感情の滞り”でした。

彼女が一番苦しんでいたのは、「ちゃんとやらなきゃ」「正しくやらなきゃ」という強い思考によって、心や感情を閉じ込めてしまっていたこと。

本来、歌声は心の奥底から湧き上がってくるもの。
けれど頭で考えすぎてしまうと、その自然な流れがブロックされてしまい、声が不安定になったり、芸術的な表現力が失われてしまいます。

世界基準の高度なベルティングとは、「思いきり出したい」という衝動のエネルギーと、「抑える(閉鎖力)」という技術的な理性がせめぎ合う、“エネルギーの摩擦”から生まれる力強い声。

感情が起爆となって立ち上がるエネルギーを、まだ基礎ができていない喉で受け止めようとすると、どうしても負担が集中してしまいます。

そうして声枯れや結節といった症状につながってしまうのです。

 

私Chicoが感じた課題と突破口

今回のレッスンを通じて、私自身が感じたのはやはり「技術だけでは越えられない壁がある」ということでした。Aさんのようにプロとして真摯に努力を続けている方でさえ、喉に不調をきたすのは、単に技術的な問題だけではなく、“エネルギー”の理解と扱い方が不十分だから。

Aさんの不調の原因のひとつは、頭で考えすぎて、エネルギーのバランスが崩れて声が声として機能していなかったこと。

そのエネルギーの流れを調整するために、心を聴き、響きを感じ、その人の“今”に必要な言葉とエクササイズを選びながら、一緒に“声の道”を探ります。

ただ「閉鎖しろ」「息を流せ」といった技術的な指示では届かないところに、声の本質はあります。

声を見ることはその人を見ること。声を整えるということは、その人自身のエネルギーの通り道を再び開いていくことです。

 

REBELTINGが目指す医療×声の未来

REBELTINGでは10年以上、まだ日本には浸透しきっていない「ベルティング」という、新しい分野の発声を専門にボイストレーニングを行ってきました。そして、クライアント達の声の問題に向き合う中で何度も、医療現場とのすれ違いにも直面してきました。

声は、心と体のエネルギーから生まれる“人の本質”です。

ベルティングはできたら神!でも一歩間違えるととてもリスクの高い発声方法でもあります。しかし、REBELTING ACADEMYでは、発声を正しく整えることで、美容、健康、さらにはその人の生き方すら変わっていく過程を何度も見てきました。これからは、その可能性を大きく広げるべく、医療とアートの架け橋となるようなプロフェッショナルチームを作り、より多くの人に届けていきたいと思っています。

 

プロフェッショナルほど、正しい声の知識を

そして、声で勝負しているあなたへ。

一生懸命頑張っているのに、なぜか声を壊してしまう。そんな方に私は何人も出会ってきましたし、私もかつてその一人でした。

でもそれは、あなたに歌の才能がないのではありません。

ただ、“頑張り方”を間違えていただけなのです。

地声を使ったベルティング発声が危険なのではありません。
正しい知識と技術がなければ、どんな発声でも喉を痛める可能性はあります。

現状、たくさんの歌い手さんが、声の本当の可能性を知らないが故に、歌声を過小評価しているのが現状です。声の悩みを解決できるという世界が信じられないから本格的なトレーニングを受けようとしない。

多くの方に愛される歌手として長く活動するためにも、ご自身の発声の基礎を正しく整える「充分な時間」を与えてあげてください。

Aさんのように、真剣に舞台と向き合いながらも苦しんでいる方に、あなたの声にはもっと自由と可能性があるということを伝えたいです。


”喉に力みがある限り、あなたはまだ本当の可能性に出会えていません”

 

REBELTING ACADEMYは、
夢に向かって頑張るアーティストを応援しています。
お問合せページよりお気軽にご相談ください。



REBELTING ACADEMY代表
Chico・Tomoko Sakaguchi Harmond

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